2013/02/07

2月2日(土)ワークショップ「能を体験しよう」が行われました

©Antony Gormley

静の中に動があり、動いていないことも一つの演技であるとする能。
本プログラムは、動く彫刻といわれる能の所作や楽器の体験をするワークショップです。
強風と横なぐりの雨が吹きつける荒天の中、このプログラムを心待ちにされていた多くの方々にお集まりいただきました。

午前中のワークショップから、劇的なまでに天気が回復した午後の能のパフォーマンスまで、2回に分けて1日の様子を振り返って参ります。

↓同日午後から行われたパフォーマンスのレポート
2月2日(土)パフォーマンス「動く彫刻 能―TWO TIMES of Noh」が行われました




■朝の美術館

強風と横なぐりの雨の中、本日のプログラムは始まりました。天気予報では午後から晴れの予報が出ていましたが、一向に回復する気配もありません。
能の面(おもて)や衣装はそれ自体が美術品であるため、1滴の雨粒ですら屋外で装束を着けて舞うことができません。天気予報と、これまで大きな屋外イベントでは天候に恵まれ続けているゴームリープロジェクトの運に賭けるように、天を仰ぐ時間が流れていきます。





■ワークショップ「能を体験しよう」
 ≫ワークショップ詳細


1.辰巳満次郎さんによる能に関するレクチャー
講師の辰巳満次郎氏

参加者全員が足袋に履き替えて準備が整うと、辰巳さんによるレクチャーからワークショップはスタートしました。
日本は古来より、左右では「左」が優先され、「左」は日、太陽、陽を表し、「右」はみぎりとも言い水や陰を表していた。平安時代の貴族の位である「左大臣」「右大臣」も左の方が地位が高い。ゆえに、能の世界では足袋や袴、足を出す順番も「左から」が行います、と辰巳さん。はじめて能に触れる方にもわかりやすい言葉でお話くださいます。




2.能の「型」を体験する
「シオル」表現を練習中の参加者
講師の方々が手本となり、基本の「カマエ」の姿勢から体験します。その後、「ハコビ」(すり足)→序破急の動き(緩急のリズム)→「カケ」(方向転換)→「クモル」(悲しい表現)→「テル」(喜び・笑いの表現)→「シオル」(泣く表現)→怒りの表現→「キル」表現(怒りの最大表現)を体験していきます。「能の感情表現は、他の舞台芸術に比べて本当に動きが少ない。わずかな顔の角度で喜怒哀楽を表現する。足し算のオーバーアクションではなく、引き算のアクションとも言える。しかし、演者の魂の中はもの凄く(壮絶な程に)その感情を秘めている」と辰巳さん。





3.能面の解説と能面をつけた動きの体験
 能において命より大切なものと言われる能面(又は「おもて」)を今回のワークショップの為に4つお持ちくださいました。4つの能面はそれぞれ、
・小面(こおもて)[昭和作、約70年前]
・増(ぞう)[昭和作、約50年前]
・中将(ちゅうじょう)[江戸中期作]
・邯鄲男(かんたんおとこ)[江戸初期作]

拝見するだけかと思いきや、貴重な能面を参加者の方にも実際につけさせて下さいました。つける前には、床に置いた能面に向かって必ず一礼するのが作法。 わずかな顔の角度で感情表現する能は、おもてをつける角度も非常に重要になるため、講師の方々が入念に位置を調整します。

有志4人の参加者が、実際に能面をつけて習ったばかりの能の型を実際に演じていきます。
こちらに背を向けて座っていらっしゃるのが辰巳さん。かけ声で4人の動きをリードされていきます。

能面をつけた参加者が並ぶと、先ほどのわきあいあいとした雰囲気から一転、会場に緊張感が生まれるのが不思議です。皆さん初めてとは思えないくらいに素晴らしい動きをされていました。







4. 能笛と小鼓の体験

能面の解説の後は、囃子方の重要な核となる能笛と小鼓を体験します。参加者は4人づつ2組にわかれて自分の番を待ちます。
今回教えて下さるのは、能笛の小野寺竜一さんと小鼓の清水晧祐さん。小鼓の清水さんは、早くより能の普及に努め、能楽囃子ワークショップの先駆者でもいらっしゃいます。

能の舞台での笛の役割は、シテ方の心理や、風などの自然現象を象徴するように高音低音を駆使し演目を装飾します。メロディではなくリズムを重視し、場の雰囲気づくりに努めます。小鼓もそうですが、簡単に鳴りそうで鳴らないのが能の楽器の奥深さです。思い切り息を吹き込まなければ笛はびくともしません。講師の方々の丁寧な教えに応えようと試みるものの、これがなかなかに難しい・・・もどかしい思いばかりが先にたちます。


能の囃子方で最も有名なのが小鼓ではないでしょうか?一度は「ポンっ」と心地良い音で鳴らしてみたいと、多くの方が思われたに違いありません。ですが、あの音を出すのに、人によっては10年かかるとも言われているそうで、実際に試してみると...「ペシッ」という音しか鳴ってはくれません。
小鼓の叩き方と同時に、清水さんからかけ声のかけ方も教わります。「ィヨ—」「ホッ」「ホッ」というかけ声とともに小鼓を叩くのですが、清水さん、辰巳さん、地謡の方々も直々に参加者の小鼓の調べにかけ声を乗せて下さいます。その音色の美しさと大迫力の声量に圧倒されながら、とても贅沢な時間を過ごしました。



5. 能の映像鑑賞と質疑応答

能の体験と、辰巳さんが編集された映像鑑賞を通じて能に関する理解を深めた後に、ワークショップの締めくくりに、午後からのパフォーマンスの解説も交えつつ、辰巳さんと参加者の方との対話の時間が持たれました。

■参加者:
「辰巳さんが能をされている時、舞っているという感覚か、演じているという感覚か、どういう気持ちでされているのですか?」

■辰巳さん:
「両方と言えます。もう一人の自分を使って客観的に演じている自分を見つめている部分もあります。丁度いいのが能面です。能面の外と内、その間に空間が生まれます。そこが自分にとって客観的な視座を持てるチェック機能のような役割を果たすのです」

■参加者:
「能舞台を出て演じられたり新作を演じられたりすることもあると思いますが、古典的な型と新しさについて、どのように捉えていらっしゃいますか?」

■辰巳さん:
「私はどこで演じようが全て『能』だと思っています。今のように能舞台で能が演じられるようになったのは江戸時代以降の話で、それ以前はどこでも能を演じていました。『芝能』というのがあるように、昔は芝生の上で能を演じる事もありました。自分としては型を破っているという感覚はありません。演じる場所が異なるだけです。」


「能舞台の背景に描かれる松は神が降りてくる所を意味し、橋がかりという能舞台を正面から見て左側に位置する通路は、時空をつなぐ場所でもある。能は、深い精神性と宇宙的な広がりを持っている」と力強く語る、辰巳さんの言葉が非常に印象的でした。


能の「型」の体験からはじまり、楽器まで体験することができた充実のワークショップはこれにて終了です。午後からは、いよいよ今回講師としてご参加下さった方々が演じる能のパフォーマンス「動く彫刻 能―TWO TIMES of Noh」が上演されます。

美術館の野外を舞台に、どんなパフォーマンスが繰り広げられたのでしょうか?
詳細はこちらのリンクからご覧ください。(N.H)

2月2日(土)パフォーマンス「動く彫刻 能―TWO TIMES of Noh」が行われました