型どりの様子 |
当日お越し頂いた参加者の皆さんは年齢層も様々。美術館周辺の子ども会"一色かいがん子ども会"の子どもたちやご父兄の方、ご近所にお住まいの方など、会場は熱気に包まれた満席の状態で、参加者の皆さんが思い思いに自由にご自身の作品を作り上げていらっしゃいました。
出来上がった作品は、どれも個性的で独創的な作品ばかり。型をとることで改めて見えてくる、モノの造形の不思議さ、豊かさ、美しさに、目から鱗が落ちる思いがしました。
それでは当日の様子を写真とともに振り返って参ります。
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1. 西雅秋さんのお話と、西さんによる型どりの実演
《大地の雌型より》とゴームリー彫刻 (撮影:夏) |
印象深かったのは、ゴームリー彫刻の隣、あずま屋付近に設置されているご自身の作品《大地の雌型より》の制作にまつわるお話です。《大地の雌型より》は、葉山に住む漁師の方々から漁船を西さんが譲り受け、型どりして制作した5つの作品ですが、その中の一つは漁師をお辞めになるご高齢の方から譲り受けたもので、漁船との最後の別れの時、一色の浜から引き上げられるその光景を見て、それまで気丈だったその漁師の方が、ご自分の人生が詰まった船との別れにわんわんと声を上げて泣かれたとのことです。西さんは言います。「あの作品を良く見ると、船の縁が一部すり減ってるのがわかる。そこは、網を引っぱる縄で長い年月をかけて削られたものだが、あの減りはその漁師さんの人生そのものだ・・・」と。「お前らにわかるかなぁー」、と子どもたちに微笑みかけていた西さんの優しい表情がとても印象的でした。
講堂でお話を伺った後は実際に美術館の散策路に出て、西さんによる型どりの実演を行いました。
今回のワークショップでは、型どりに焼き物の信楽焼で使われる油分を含まない土粘土を使用しています。この写真は西さんがゴームリー彫刻の顔から取った型の様子。もちろんゴームリー氏本人にも許可を頂いて型どりをしています。
2. 型どりしたいモノを探しに美術館周辺を散策
昼食を挟んで、参加者の皆さんは型どりしたいモノを探しに美術館周辺を散策しました。美術館のあずま屋付近で皆さんの戦利品をパチリ。
貝殻や、松林の松ぼっくりなど、葉山らしい品々が多く見受けられます。
西さんも仰っていましたが、このワークショップを都会でやったらどんなモノが拾われてくるか、葉山の型と全く違う形が出来上がるかもしれませんね。
3.型どりと流し込みの型作り
散策の後は型どりの時間です。美術館周辺から拾ってきたモノや、この写真のように直接対象に粘土を押しつけて型どりするなど、参加者の皆さんは気の赴くままに5枚の信楽の粘土に型をとっていきます。
5mm厚程の5枚の粘土に対象を押しつけて型をとった様子
5枚の粘土の側面をつなぎ合わせて、流し込みの型の完成です。
4.石膏の流し込み
型が出来上がると、石膏の流し込みの行程に移ります。
型を作業板にのせたまま屋外へ移動します。
柔らかい粘土が石膏に耐えられるよう、レンガや植木鉢で支えを作ります。
石膏の粉に1:1の割合で水を入れかき混ぜます。西さんの手際の良い手さばきを興味深く観察します。
子どもたちもかき混ぜる作業を手伝いました。
石膏を流し込む作業はさすがに慣れてないと難しく、全て西さんにお任せしました。
参加者は西さんの指示のもと、流し込んだ表面に出来た気泡を消すため、作業板を紙相撲のようにトントンと叩きます。
この流し込みスペースでは、西さんの「トントンっ!トントンっ!」というかけ声が終始響きわたり、流し込みの緊張感がほぐれ、なんともユーモラスな雰囲気に包まれました。
流し込みから20分程経つと、みるみるうちに石膏が固まってきます。石膏は固まる間際に熱を出し、それが冷えると更に強固な固体になります。皆、はやる気持ちを抑え石膏の表面をじっと見つめます。
5.粘土をはずして完成!
待ちに待った粘土をはずす時間がやってきました。石膏を流し込んだ型から、まずは側面をそっとはずし、本体を裏返してゆっくりと最後の粘土をはずします。
こちらは、ゴームリー彫刻の顔と、天地の側面は木の年輪を型どりした作品。力作です。
全員の型はずしが終了すると、全テーブルを皆で訪ねて作品発表会です。
一人一人が何で型をとったかを発表し、西さんが全員の作品に丁寧に感想を述べていきます。「型が決壊して石膏がはみ出した部分も味だよね。取らない方が面白いかもしれない」「よく(型が)とれてるね」「こういう模様の豆腐があったら面白いよね」・・・などなど。
ワークショップには大人も子どももありません。会場には、同じ工程で作品を作り上げた連帯感のようなものが生まれてきていて、皆の発表を真剣に聞き、心からの感心と笑顔でそれぞれの作品を称えました。
7.最後に
「これから、今回の型どりのワークショップのように、物事の逆さまを考えてその向こうを見る機会があるかもしれない。おじいちゃんになってもこの作品は残るから、これを見てあの時こんなことをやったな、と思い出してみてください。みんな、元気に生きてくださいね」と西さんらしい言葉でワークショップは締めくくられました。
来場者も初めてこの場所で会った方も多い中、何とはなしに別れを惜しむ空気が流れていました。「ありがとうございました」「楽しかったですね」「また会いましょう」と声をかけ合い、ワークショップを通じて皆さんの間に暖かいコミュニケーションが生まれているのを感じました。
改めて、ご参加下さった皆様に心から御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。またぜひお会いしましょう。(N.H)
■番外編
発表会を待っている間、はずした粘土でもうひとつ作品を作り上げてしまった男の子が居ました。さすがです。